接眼部の自由度があまりないガイドスコープとかでも直角に曲げて楽に天頂付近を見たいという願望は, バーローレンズを入れたらかなえられるんじゃないかと思ってやってみた.
ガイドスコープとかの接眼部はガイドカメラで合焦できるような長さに作ってあって, そこにアイピースを入れれば眼視もできると思う. しかし天頂鏡とか天頂プリズムを入れると, アイピースが遠くなりすぎて, ドローチューブやヘリコイドをめいっぱい縮めても合焦しなかったりする.
ところで, バーローレンズを入れると少しドローチューブを伸ばすようになっていると思う.
てことは, バーローレンズに天頂プリズムを付けて, アイピースを挿すというやりかたなら, 焦点位置が普通より外に出てきて合焦できたりするんじゃないか?
手元に3xバーローレンズがあるのだが, それはバーローレンズとアイピースの間に天頂プリズムを入れると合焦しなくなってしまい使えなかった. 倍率の低いものならできるかもしれない. (天頂プリズムにバーローレンズを挿すのは物理的に無理がある. バーローレンズは挿入部が長いから.)
ということで某熱帯雨林系通販で探してみると, 例によってSVBONY製品がずらりと出てくる. SV137という2xバーロー(2500円くらい)がコンパクトでよさそう.
やってみた.
↑バーローレンズSV137の先端のレンズ本体を外して, 天頂プリズムに直接取り付けることにした. アイピースとバーローレンズ本体の距離を近づけることができ, 倍率の公称値からの変化が少ない(これで眼視で確認したところ約2.5x).
バーローレンズについていたバレルの方は使わなくなった. この部品はプラスチック?と思うくらい軽いが, ちゃんと金属製. アイピース側にT2ネジが切ってあるので, T2リングを付けてカメラを取り付けることもできる. 何かに使い回せそう.
↓こんな感じで, 5cmガイド鏡に付けて合焦位置を調べた.
この3つの場合で, ドローチューブの引き出し量を調べた.
使った道具は
- 5cm f=180mm ガイドスコープ
- Vixenの天頂プリズム(プリズムのハウジングがプラ製の安いやつ)
- 2xバーローレンズ SVBONY SV137
テストに使ったアイピースはこの3つ
- Kenko Plossl 25mm
- 笠井 FMC Or-10mm
- SVBONY SV215 3-8mmズーム(8mmで)
結果
3つのつなぎ方で各アイピースで合焦するときのドローチューブ引き出し量を以下の表にまとめる.
つなぎ方 | Kenko 25mm | 笠井 10mm | SV215 |
---|---|---|---|
アイピースのみ | 7.3 | 5.3 | 2.0 |
バーロー+アイピース | 8.6 (+1.3) | 7.8 (+2.3) | 5.5 (+3.5) |
バーロー+天頂P+アイピース | 2.7 (-4.6) | 2.3 (-3.0) | 0.0 (-2.0) |
(数値はmm, ( )内は「アイピースのみ」の場合との差)
普通にバーローレンズを使う場合はドローチューブを数mm余分に引き出した位置で合焦し, このバーロー付き天頂プリズムを挿入する場合は, アイピースのみの合焦位置から2〜5mmほど縮めた位置で合焦する. このくらいならストロークの短いヘリコイドの付いたガイドスコープの接眼部でも何とかなりそう.
ちなみに, ただ天頂プリズムを挿入しただけの場合には接眼部のヘリコイドをはずしてめいっぱい縮めても合焦しなかった.
PS 「天頂プリズム」と「天頂鏡」, 「光路長」と「焦点の位置」
天頂プリズムと天頂鏡は, 外形が同じサイズでも焦点位置に違いが出る.
天頂プリズムは中にガラスが入っていて, 焦点に向かって収束しつつある光束が入口と出口のガラス平面で屈折する. この屈折については平行ガラス板を通過するときと同じである. ガラスに入って出るときの屈折により, ガラスを通過した後の焦点位置はガラスがないときの位置より少し後ろに下がる.
だから, 天頂鏡と比べて天頂プリズムは焦点位置を後ろにずらすことになり, 天頂鏡を入れると接眼部をめいっぱい縮めても合焦しない場合にも, 天頂プリズムだとOKという場合があり得る.
ところで, 「光路長(光学的距離)」は同じ長さのガラスと空気では, ガラスの方が長くなる. 光路長Lpは空間の長さLとその空間を満たす媒体の屈折率nより, Lp=nLと定義されているらしい. (屈折率は空気は1, ガラスは1.5くらい) 屈折率のより大きな媒体に入ると光の速度が落ち, 波長が縮む(振動数は変わらない). それで一定の長さに入る波の数は増える. 光路長は波長を単位として測った長さに相当するものと思えばよいのかも.
焦点の位置が「光路長」で決まると誤解していると, 天頂プリズムを使う方が天頂鏡を使うより焦点が前に行くと思ってしまう. 実はそう思ってたので, 天頂プリズムを使うときの方がドローチューブを引き出さなければならないのを奇妙に感じた. そうではなく, 屈折率の高い媒体を通ると, より長い光路長の向こうに焦点を結ぶようになる, ということ.
【了】
追記
こういう感じの方法は笠井トレーディングさんの製品ページで「2インチマルチショートバロー」のところで紹介されていた.
追記2: Evoguide 50ED IIが来た
「ガイドスコープ」だけど天頂プリズムつけて眼視もしたい, その本命は実はこれ.
SkyWatcher Evoguide 50ED IIはEDレンズ2枚玉のガイドスコープで一部にはこれを撮影用に使っている方々もいるようで, 純正のフラットナーもある.
日本のSkyWatcher代理店のシュミットさんの商品ページには「EDレンズが採用されたガイド鏡」とだけ書いてあるが, SkyWatcherのサイトではこのEDレンズが並のではなく良いやつのFPL-53だとある.
小さいものクラブにはSD60SSが居て, それはそれで重宝しているのだが, カバンに忍ばせられるほどはコンパクトではなく, 実際5cmガイドスコープ(アクロの安いやつ)を持ち歩いたりしていて, このEvoguide50EDがFPL-53だというので....生やしてしまった(笑). (これはガイドスコープなのだ)
f=240mmでF4.8, フラットナーを付ければイメージサークル28mmという. 構造上ミラーレスは直焦点に付けられないが, ASI533MCで電視観望と撮影に使える. フィルタも1.25"サイズで間に合うので正にBudget Astrophotographyモデル.
架台への取り付けとしてはファインダー脚が付属しているが, せっかくスリムな本体なのに径が大きくネジの出っ張った脚はイマイチ. ネジ穴付きの板でも筒に直付けしようとも思ったが, カメラをT2ネジで付けると視野の回転ができないので鏡筒を回す必要がありそう. 思案していると, 純正パーツで「セミサークルリング50ED」というのが見つかった. 商品ページが目立たないのですぐに気づかないが, 本体のページから見つかりやすくしておいたら良いのに...と思ったりする.
このところ晴れないが, 眼視で一瞬の晴れ間の金星や山際の鉄塔の看板を見ると, 50mmアクロとはさすがに段違いの切れを見せる. このバーロー+天頂プリズムの倍率が上のように2.5xとすると, Evoguide 50EDがf=600mm, F12の長焦点屈折になるのだから.
【了】