風来坊@真幸福知

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始まりは坐禅会のご案内, 思いつくことを何でも書いていたら星空系に... Started with Zazen session info. now almost astrophotos. 시작이 참선회 안내, 이제 별하늘 사진들.

福島第一廃炉現場の見学

重大事故の研究が仕事のため, これまでに2回2014年と2015年に国際会議と韓国の先生の案内役で現場を見せていただいたことがある. 今回は韓国慶尚北道の予算による原子力専攻の大学院生の教育プログラムの一環として9名の学生の見学を引率する役を依頼され行ってきた. (2016.12.6)

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いわき湯本のホテルを宿所に. 来てみて知ったのだがこのホテルの社長さんは韓国の方. 3.11以来韓国からの観光客は皆無とのこと. 久しぶりの韓国からの団体で喜んで下さったのかドリンクをサービスして下さった. 庭に何故かアンパンマン... :-)

翌朝8時出発で見学者受付場所の1F未来館(旧福島第二エネルギー館)へ向かう. Jビレッジに代わって最近からここで作業者教育なども行われている. 高速道路からはこの季節らしい透明感ある静寂な福島の山野が... ところどころに黒い袋が並び緑のシートで覆われた除染廃棄物置き場が...

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初めに事故の経過や廃炉作業の現状の説明をうけ, TEPCOのバスで現場へ移動. 現場までの道では, 国道6号から現場へ向かう道で草木の多い丘を超えるあたりが7μSv/hくらいで線量が高かった. 福島第一は敷地内が管理区域のため, 防護装備と線量計を借りてゲートを入り, 所内をバスで見学. 装備は靴カバーと綿手袋のみ. マスクもなし.

所内は地面がほとんどセメントで養生されていた. ホコリが舞わないようにと雨水が地下に入らないようにとのこと. 線量はほとんどの場所で1μSv/h以下. 原子炉建屋が目前に見える高台では50μSv/hくらい. あちこちに小型のモニタリングポストが置かれ, 線量が確認できるようになっていた.

ほとんどの場所では作業員の装備は普通の作業服, 普通のマスク程度だった.

約2年前に来た時と比べても現場はかなりきれいになった印象. 今は4号機の使用済み燃料取り出しは終了し, 1号機の上の方の瓦礫の処分や3号機の使用済み燃料取り出しの準備が進められている. まだまだ先は長い.

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2号機と3号機の間あたり. (この写真はTEPCOのご好意による)バスで巡った中ではこの近くで最大線量率450μSv/h. 話題になった地下水の建屋への流入を防ぐ凍土壁は, 一部を除いて稼働中. 上流で地下水を汲み上げてバイパスする方法と合わせて, 初め400t/日だった流入量は150t/日まで抑制されているとのこと. 残りの凍土壁は, 建屋まわりでの地下水位の変動により建屋から周りに汚染水が出ないように様子を見ながら作動させるとのこと.

汚染水のタンクは, 現在はセシウムなどほとんどの放射性物質(62核種)を除去してトリチウムだけが含まれた水が保管されている. トリチウム濃度は環境放出基準の5〜50倍程度.

今回の見学での被曝量は約10μSv. X線撮影1回分くらい.

見学を終えて, 1F未来館の向かい, 富岡町で最近営業再開したショッピングセンターのフードコートで食事. 日本のラーメンやトンカツ, 親子丼などが人気.

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マンガ"いちえふ"でも紹介されていた"富岡は負けん!"の横断幕. このあたりから海岸寄りの道に抜けて周囲の状況を見てみる.

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楢葉町あたりの海岸に除染廃棄物置き場. 線量計の値は通常と変わらず<0.05μSv/h.

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田んぼとか湿地には白鳥たちが.

学生さんたちの感想を見ると, 韓国内での福島や日本に対する一般の人々の認識が分かる. 今回参加しなかった学生の中には, 本人は行きたいが家族の反対のためにあきらめたケースもあった. 参加した学生の中にも, 行く前は放射線被曝で問題が起こらないか心配したり, 周囲の人たちから心配された, あるいは否定的な言葉をかけられた人もいた. だが実際に行ってみると, 福島県内でも現場に近づくまで線量は通常とほとんど変わらない.

宿所を出発するときから車内で線量計(エステー化学製の家庭用線量計, ガンマ線のみ)の数値を見せながら行ったのだが, 現場近くに行くまで線量は通常とほとんど変わらないことが分かって少々驚いた学生もいたようだ.

原子力専攻といっても, 皆が放射線放射性物質を自分の研究に使うわけではなく, 放射線の人体への影響などについて知識が少ない学生もいる. 今回の見学を通じて線量率に対する感覚を学んだ学生もいただろう. 実際に行ってみると思ったよりずっと線量は低くて驚いた; 現場が思ったより整理されていた; 一方で, 今も数千人の作業者が投入されて続けているということ自体が膨大な損失を意味していることを認識して, 原子力事故は絶対に起こしてはならないという責任感を感じた学生もいた. 専門家として, 今やっている研究の他にも原子力のリスクや安全性について事実とデータから冷静に判断して自信をもって説明できる力量の必要を自覚したり, 今やっている研究の重要性を自覚した学生もいた.

いずれにせよ彼らにとって, わずか2泊3日だが生涯忘れることのない記憶となるだろう.

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この写真は富岡IC近く. 通常の数倍と少し高くなっている.

山陰から見て日本海を越えた向こうが韓国の慶尚道. そこにはコリ, ウォルソン, ハヌルと3つの原子力発電所があり, 韓国の半数以上(18機)の発電用原子炉が稼働する. それらが安全に管理されることは日本にとって国内の発電所に勝るとも劣らず重要. 海岸に打ち上げられるハングル入りのゴミみたいに放射能汚染がやってきては大変. ということで今回の見学が将来の韓国の原子力の安全管理に多少とも足しになることを祈念する.

今回の福島訪問で, 私は水戸に住んでいた頃の知人家族にも会った. 彼は建設系の作業員として福島第一の現場で仕事をしていて, 家族と共にいわき市内に住んでいる. 学生たちをホテルに下ろして部屋や食事の説明をした後, 夜に会いにいったのだが, 5年前まだ小さかった息子さんは来年から小学校とのことで元気に大きくなっていた. 息子より年上のペットのウサギも元気にガサゴソしていた.