わんこの散歩から帰ってくるとき, 本堂の屋根の中ほどになにか黒いものがあるのに気づいた.
前の公園からみると, 黒いビニル袋にも, うずくまった黒猫にも見えた. 死んだカラスのようにも見えた.
本堂の庭まで戻ってきて見上げると, カラスだった. 横を向いている. 生きていた.
なぜ猫だとしたら生きていると思ったのにカラスだとしたら死んでいると思ったのか? カラスが屋根の中程で瓦にへばり付いているという状況が思いつけなかったからなのだろう. 屋根のてっぺんで突然死して落ちてきて中程に止まっている, という想像の方がリアリティがあるように思われた.
生きているにしても, 足が瓦のすき間に挟まって動けないとか, 何か事情があるんじゃないかと思って声をかけてみた.
「アー」
するとカラスが答えた.
「アー」
おっ, と一瞬たじろいだ. 返事が帰ってくるとはあまり期待していなかったから.
もういちど声をかけてみる.
「アー」
カラスは再び
「アー」
大丈夫ということなんだろうか?
何度か
「アー」
「アー」
という会話を繰り返した.
そのうちカラスは立ち上がって, 瓦の斜面で多少足を滑らせながらぴょんぴょん跳ねて見せた.
部屋に戻って, 窓から見ると本堂の屋根の上のカラスが見えたので写真を撮った.
会話が録画できるかなと思って, ムービーモードに切り替えると, カラスはもういなかった.
カラスとの会話はトップシークレットだったらしい.
追記:
この印象的なできごとの後, 妻の姉から電話があり, 妻の叔父が亡くなったという知らせだった.
義父のいちばん年下の弟で, 妻たちからは「◯◯にい」と呼ばれ親しまれていた. 独身で長年のひとり暮らしの後, 身の回りのことができなくなり1年半くらい前に義姉の世話で介護施設に入られた. 義父が亡くなった後からは疎遠になり, 介護施設に入られてからもコロナの時勢もあり会いに行くこともなかったのが少々心痛い.
介護士さんたちに優しくしてもらってご機嫌とは聞いていたのであまり痛まなくていいかもしれないが...
冥福を祈る.